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Intermission001 「はーなーせー!」 まるで磁石に吸い付く鉄、ビスケットに群がる蟻。 インターホンを押した後どたどたと音がし、戸が開いたかと思うとがっしりと―一方的な―熱い抱擁をかまして来た、この男が知る人ぞ知る闇医者。 因みに性格には少々難あり。 「久しぶりだね錦君!いやー良く来てくれた!今丁度お茶にしていた所でねー」 「あーはいはい放せ俺を解放しろこンのヤブ医者。仕事だ仕事」 「仕事?」 ほら、と後ろに居るヒゲ―因みに血まみれ―を示唆する。 あ、アイツ巻き込まれねぇように逃げてやがる。ヒゲの分際で生意気な…! ソイツを見て白玉はああ、こりゃ酷いね、と笑顔を崩さずに言った。 多分、ヒゲは嫌われたな。せいぜいイヤミ言われやがれ。 この男、白玉は普段はテニスプレーヤー兼トレーナーをしている。 その為の少しばかりかじっただけの医学が、何時の間にやら平然と手術―もちろん違法―をやってのけるに至っている。 一体何でそうなったのやら、だ。 それでも腕は確かなのだが、白玉はどうも人の好き嫌いが激しかった。 ものすごく分かりやすく言うと、同じ治療でも片やタダ、片や数十万といった具合だ。 更には待遇まで違ってくる上、気に入られると気に入られるで先程の錦への対応宜しくウザい事この上ない。 そんな訳で、どちらであれ此処に用件なしに立ち入ろうという人は先ず無かった。 「―――で、コレはコレの依頼?君の依頼?」 コレ、と大和を指差しながら嫌そうに彼は錦に視線を戻した。 「俺の依頼。」 「やっぱりそうか…。この銃傷、君がやったんだろ?」 なら仕方無いな、そう呟いて白玉は大和の傷を突付く。それに大和が少しだけ呻いた。 そんな事はどうでも良いこととでも言うように、彼は指先に付いた血を気にしながら―なら触らなきゃいいのに―其の侭部屋の中へ二人を招いた。 「はい、どーぞ」 両手に持っていたマグを、客人―錦と、そして何故かそこに居た季楽(息子の方)に出し、白玉はソファに腰掛けた。 正面には錦、横には季楽。大和はそこら辺に突っ立ってろ、という事らしく席すら勧めていない。 白玉は二人が口をつけるのを―何故か幸せそうににやけながら―見届けてから、ようやっと『ああ、居たの?』的な雰囲気で大和を見た。 それから怪我の箇所からばたばたと垂れる血でカーペットが汚れるのを恨めしそうに眺める。 「……錦君の依頼だからきっちりやるけどさ、本当ならぼったくる所だよ?あ、カーペットのクリーニング代も宜しくね…血は落ちにくいんだから」 そんな事してるとどんどん料金加算するよ?とでも言いたげに彼は大和を一瞥すると、コーヒーカップで湯気を立てているブラックを仰いで重い腰を上げた。 そして先程よりもじっくりと傷口を眺めてため息を零す。 「あーあ、コレ中に銃弾残ってるねぇ…麻酔面倒だな…」 「処置は大体は終わったけど、やっぱ熱出たよ」 血の付いたゴム手袋をそこらへんに放り投げ、白玉は再びリビングにやって来た。 多分―否、絶対。カーペットにさっきヒゲの血が付いたから、捨てる気らしい。あと買い替えさせると思う。 「面倒臭いヤツだな…」 「うん、俺アレ引取りたく無いから錦君持って帰ってくれない?」 「俺もヤだっつの」 まあでも持ってきたの俺だし?数秒の睨み合い―白玉は笑顔だったが―の後、結局持って帰る事になった。あーマジだるい。 「靖幸君は?帰っちゃった?」 「あーキラク?だっけ?ならさっき10万くらい盗って帰ってったケド…何アレ?」 「ああ、タクシー代だよ。持っていってくれたなら良いんだ」 良い笑顔、としか表記しようがない位のすンばらしい顔をなさって、そう言い放った。 あの、なんつーの?本人は何とも思っていないらしくて、表情が輝いてる。 …正直、引く。ドン引き。 だってホラ、金取られてこんな顔ですよ?…な、引くだろ? 「まあ…本人が良いんなら良いケドさ…此処、東京だろ?」 「うん、そうだね」 「……キラク、って、埼玉だろ?」 「ああ、うん」 「で、タクシー?電車じゃ無くて?」 「うん、タクシー。」 はい、ちょっと待った。 俺の足りない頭を特別にフル回転してやるから暫し待て。「考えるの遅い」と「…馬鹿?」は禁句でヨロシクドーゾ。 先ず確認。現在時刻は?…はい、そのとおり午後3時28分。良く出来ましたー。 じゃあもうひとつ。終電は何時?…えーとこれはちょっと待て。…………えー…、深夜。うん、深夜。 では、この二つを条件に加えた上で考えられる答えを導け。 はいさそれでは声に出してー、さん、にー、いち、ドウゾ! 「…………電車有るじゃねーか…」 「うん、良く出来ました錦君!偉い偉いー」 俺はもの凄く沈んで―否、呆れて―限界まで低くなった声音で精一杯それだけ搾り出した。 が、流石性格破綻者。…と名高い変態ヤブのモグリ医者。 まるで何処ぞのドッグトレーナーが訓練に成功した犬を褒めるみたく。 そらあもうがしがしと力の限りに撫でられた。 多分本人は撫でているつもりなンだろーけど、がっしりと肩を抱かれた上で頭の上から髪をかき回すようにするのは頂けない。 あのさ、どっちかってと俺苦しい。あと痛い。 「でもねー、二つ式に入れ忘れてる事があるんじゃないかなー?」 ぐりぐりと俺の頭をコレでもかと弄り倒しながら、白玉は更に続ける。 ああはい、頭の悪ーい俺に対してわざわざご説明アリガトウゴザイマース。 「ほら、僕の性格と、靖幸君の年齢」 「……お前の性格は置いといて、アイツ電車乗れねーワケで、も………あ。」 目から鱗。……じゃない、灯台もと暗し。 うん、そうだコイツキラクにべた惚れだった、ウザがられてるけど。 まあつまりこんなカンジ。 意訳:あんな可愛い子電車に乗らせたらさらわれちゃうよ! んなワケあるか。 どうもこの目の前の変態さんは全世界の人間が自分と同じ価値観を持っているか、そうでなくともかなり欲望に忠実な奴らだと思い込んでいるらしい。 …ごめん、俺逃げて良い? 「……あのな、アンタ阿呆?」 「やっだなあ錦君、今更だよー」 駄目だ、コイツマジ疲れる。 もう来ない。ぜってー来ない。 「…………うん、俺帰る」 「そう?じゃあはい錦君にも。あんなでっかい荷物じゃ公共機関は頼りに出来ないもんねー」 とりあえずもう嫌だ、と何時もの如くな感想を引っさげて…ついでにデッカイ荷物を担いで、俺はタクシーで逃げ帰った。 嗚呼、日光が眩しい。 20××年、ヒゲがやっと出て行った日。 錦。 追記:あいつらなんて大ッ嫌いだ! |