例えば、言葉一つ
「…あ。」
パサついたサンドイッチを口の中に詰め込んでいれば、隣から間の抜けた声。
取られた水分を補おうと水を流し込みながら其方を見れば、怪訝そうな顔をしていたのだろう、謙也は微妙な顔つきで口を開く。
「…その、あー……な?」
視線を泳がせて、苦笑い。何か気まずい事を説明する時の顔だ。
例えば宿題を忘れたから貸してくれとか、半年借りっぱなしだった本を返す時の切り出しとか。
とにかく相手…この場合俺にとって、あまり良い気分にはならない事。
「怒らへんから言いや」
それじゃ解らへんやろう
付け足してもう一口、温い水を含む。幾ら日陰とはいえ夏、外、とにかく暑い。
何でこんな日にまで屋上に陣取っているのだろう、とぼんやり思う。教室やら、無難な所にしとけば良えのに。
「誕生日……今日?やなかったっけ」
「…………ああ。そない事か」
「そない事て! ああぁ何も用意しとらんし…」
別に人の誕生日なんてそうそう覚えていられるものでもないだろうに。
気にしなければいいのに、そんな所だけ妙に律儀だ。
ごめんごめんと謝罪の安売りをしているヤツを尻目に、ぐるぐると手の内のゴミを括る。嗚呼、よく飛びそうなフォルムやな。
「別に良えて、期待しとらんから」
「せやかて…
俺はしっかり貰うとって、何も無いんは気分悪いやんか」
やっぱり律儀。
拘り過ぎんのが偶にキズ。…いや其処が良えとこなんやけど。
真面目、素直。謙也の美徳。言い換えればホンマもんの阿呆。そりゃあもう地の果てまで、なお人好し。
「明日!明日何か持ってくるさかい…」
「いらん」
困り顔した侭の謙也。
内心とっても面白いんやけど。ちょっと可哀想なカンジもしてきた。
「いらん て」
「モノはいらんから、それより言う事あるやろ?」
へらり、笑みを一つ浮かべてやれば。
暫くの沈黙、嗚呼、と納得した顔して。
それから満面の笑みを浮かべて言うものだから。
「“誕生日おめでとう”」
「おーきに」
―――例えば言葉一つ。
心の底からのそれだけで、今は十分。
…なんて、意地を張ってるだけなのだけれど。
謙也の顔を見ていたら、なんだかどうでも良くなった。
落書き用絵版からの今更すぎる転載。
一応4/19、蔵誕にあわせて上げたもの。