プラトニック





 ―もう 貴方好みでいられない。











 「なに、お前、髪切った?」


 まじまじと此方を見つめてくる、金色の双眸。
あんまりじっくりと見られるというのも、心地良いものではないのだな、と内心思った。
其れは贅沢な事なのかもしれないけれど。
 彼―エドワードのご指摘通り、私は少し髪を切った。


 「気付いた?」


 「ああ。・・・だってお前、ずっと伸ばしてたじゃん、ガキんときから。」


 その言葉通り、私はあまり髪を切らずに、伸ばし続けていた。彼と出会ってからは、殆ど髪に鋏を入れていない。


 「やっぱりエドは、長い方が好き?」


 切ったばかりの髪の毛先を、指でくるくると弄び、訊いてみた。
 ていうか、エドも長いよね。でも私はそっちの方が好きだけど。そう言ったら、少し彼は頬を赤く染めた。


 「まあ、どっちかと言えば、な。」


 ああ、やっぱりそうなんだ。点と点同士が線で結ばれた。其れは其処にあるべきモノが元の場所に還る様に、自然だった。
 ああ、勝手に唇が其の言葉を紡ぎ出す。
言ってはいけないのだろうけど。判りつつも、止められない。
意識が行動に振り払われる感覚に、ただ従順するしかなかった。
 くるくると指先で弄っていた毛先を解きながら、云った。



 「そう。ウィンリィも長いもんね。」


 あれだけ長かったら、髪形変えるの楽しいよね、と呟きながら、自分の家の中で、とびきり気に入りのソファに身を沈める。
アンティーク調の装飾が施された、若干古ぼけた其れは、きし、と音を鳴らした。
 ―その音が、より一層静寂を色濃くさせる。



 「何でそうなるんだよ」


 ちらり、と彼の顔を一瞥したら、何とも微妙な表情をしていることが分かった。
 怒っているのか、それとも哀れんでいるのか。


 「違うの?」


 私解っているんだから。
 そうは流石に云わなかったが、そういう意を込めて、一言の疑問を放った。弓で放った矢の様に、突き刺さってくれたら良いなあと思う。
 少し、彼はその端正な顔を歪めた様な気がした。―当たりはしないが、的は掠めたようだ。


 「・・・・・ちげえよ。別にあいつは関係ねえだろ」

 「じゃあ如何してエドは長い髪の子が好きなの?」


 それって、きっとウィンリィとずっと一緒に居たからだよね。
 ―もっと正確に。確実に。矢を放つ位置を探り、的の中心を捉える。弓の照準を、絞って行く。

 其の為に、顔には満面の笑みを。



 「それ、は、・・・・お前だって、そうだろ、」

 「ねえ、エド、覚えてる?」


 ―嗚呼、的を射る位置を、見つけた。本当は見つけたくなかったのかもしれない。
だって、あんまり滑稽で、ひどく残酷だから。でも、射ずにはいられなくて、



 「昔、エドはウィンリィの長い髪が綺麗だ、って云ったこと」


 今度はきちんと命中したのだろうか?
 素直、無邪気であること。其れは時に残酷であり、凶器にすら変貌する。純粋故の、鋭利。

 私、すごくショックだったの。だって私、あの時、髪短かったから。
 莫迦みたいだけどね。



 「そんなの、ガキんときの話だろ、今は、」

 「私、それ聞いて、髪伸ばしてきたのよ、今まで」





 静寂のコントラストがはっきりしてくる。薄い靄は、やがて深く濃いミルクの様な霧となっていく。溺れていく様だ。
 溺れるのは御免なので、泳ぐことにする。


 「気付くわけ、ないよね。エドってば、ウィンリィしか見ていないんだもの。」


 本当、私って一人で莫迦みたいだよね。



 「・・・・オレは、・・・オレは、お前が、」



 其の先の言葉を、私は聞きたくない。
 だって、それは。


 「いいのよ、エドには、私よりウィンリィの方が似合ってるもの」



 あの時のように、無邪気で、優しくて、残酷な代物だから。
 あの時のように、形にならない期待を持ってしまうから。 貴方を求めてしまうから。


 「何、でだよ。何でお前じゃだめなんだよ。何でウィンリィなんだよ、」




 だって。




 「エド、ウィンリィのこと好きなんだもの。」


 厭でも判るの。
 目線が表情が仕種が行動が言葉が態度が 其れを全て示している。何て酷なのだろう?
 貴方は優しいから?そうならば、優しいことは罪ではないか?
 いっそ、冷たくしてもらう方が、優しくはないか?(だって情が移ることは絶対に無いから)



 「違う。 オレは、お前が」




  好 き だ 。

 その三文字が。聞きたくない言葉であることに、ただ絶望するしかなかった。
 きっと、普通の人にとっては嬉しさや希望に溢れる三文字だろうに。
 でも、ねえ。
 希望なんてあるだけ無駄なんでしょう?



 「・・・だからね、私あなたの嫌いな女の子になるわ」





 そんな顔見せないで。
絶望が揺らいでしまうから。貴方の幸せを崩してしまうから。希望が入り込んでしまうから。 
 私が壊れてしまうから。

 貴方が其れでも私を好きだと云うのならば
 私は貴方好みの女の子になんてならない。
 そうしたら、貴方。私を嫌いになってくれるもの。

 だからね。




 「幸せになって?」











(自然にさよならをできる方法)
(精神だけで貴方を愛す方法)












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言葉では解らないこともある。 目に見えるものだけが愛じゃない。
 ・・・夢なのに名前変換が一箇所も出てこないという、現実小説← になってしまったorz



 (20090726)
20091010 修正









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