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「逃げんなよ」 ―この状況で逃げる素振りを見せない奴の方がどうかしている。 「ねー、エド。・・・錬金術教えて?」 ガタンゴトンと振動し、目的地まで走り続ける列車の中で、あたしは隣に座る彼にそう告げた。 隣で仏頂面をしているあたしの双子の兄― エドワード・エルリック…最年少国家錬金術師だ― は、その仏頂面をまたひどく顰めた。 あー、この顔をする時は、大抵。 「駄目だ。・・・つーか、前に教えてやっただろが。」 「そうだけど。だって、あたしちょっとしか使えないの、知ってるでしょ」 ―そう、私の出来る錬金術と言えば、連成陣は勿論無くては出来ないし、 大きなものは練成できない、そもそも構築式が覚えられない。 そんな力量なのである。 国家なんたらの天才錬金術師(いや、努力の結果だというのは知っているけれど)のエド程、 錬金術のセンスや技術は持ち合わせていない。 「お前はそれで十分なの。今の世の中、錬金術が使えない奴の方が多いんだから、使えるだけいーじゃねえか。」 金色の双眸(私もだけれど)を少し細めて、呆れた様に諭すエド。 「だって、国家錬金術師が兄なんですよ?色々訊いておいた方が役に立つかなー、と。 それに、いざとなったらあたしも」 「駄 目。いーの、お前には必要ねーの!!・・・だからお前に教えんのやだったんだよ・・・。 あー、昔のオレ、すげぇ馬鹿だった・・・」 「・・・ねえ、そう言わずにお願い、エド!・・・・・・・かわりに何でもするから、ね?」 腕に縋り、頼みこむ。 ちらりと上目で見ると、エドはこちらをまじまじと見つめ、そして底意地の悪い笑みを浮かべた。 …本当に性の悪い、成分の殆どが毒素のような、「笑顔」。 「・・・何でも、って言ったよな?」 顔をこちらに向け、接近してくる。エドの金色の長めの髪が、さらりと頬を掠めた。 ― すごく、悪寒がする。本能が、危険を警告する鐘をぐわんぐわんと鳴らしている。 や ば い。 「・・・言ったけど、あの、エドワード君?」 するりとエドの腕が私を囲う。嗚呼、鐘は壊れそうなくらいに鳴り響いているのに。 それが逆に行動力を鈍らせるように感じた。実際、鈍っている。 …ああ、何でこういう時に、可愛い弟― アルフォンスは居ないのだろう。(パンを買いに行かせたのは自分なのだったが) 「あ、っと、・・・あたし、ちょっとアルの所に。・・・アルってば遅いねえ」 これは、蝶の様にひらりとかわすが善し。 そう思い立ち、すっくと立ち上がろうとしたあたしの腕をぐい、と引っ張り、エドによって其れを阻まれる。 ・・・束縛されるって、こういうことなのかなぁ。 「逃げんなよ」 ―ほうら、捕まった。 逃げられる訳ないって知っているのに。 それでも抗わない訳にはいかないから。 負けてしまう様で、怖くて苦しいから。 虫取り網にかからないようにしていたのに。 「・・・錬金術の基本、忘れたわけじゃあないよな?」 そう言いながら、にやにやとした笑みを崩さないエドを、内心呪った。 ―・・・・、何なんだよ、こいつ。 何で、そんなに楽しそうな顔をするんですか。 「・・・・・・『等価交換』・・・。」 「覚えてんなら、話は早いよな?・・・―。」 どきんと胸が波打ったような気がした。 あたしって、やっぱりエドに弱い。其れも理由の一つだが、もう一つある。 エドが如何せん、ずるいのだ。 「何と交換するわけ、・・・」 ガタンゴトンと忙しく動く列車の中。 生憎、乗客はあたし達以外には乗っていなくて。 窓辺から差し込む、夕焼けの淡い橙色の光が、エドの綺麗な金髪(あたしとは少し違う、)をより一層煌かせる。 あんまり綺麗で、不覚にも見惚れてしまった。 蜜に溺れる。 しまった、これは罠だった。 こいつの仕掛けた(ずっと昔からの、)罠だった。 「ん、そりゃ、もちろん。」 囲われたあたしは、まるで囚われの蝶。籠に入れられて、愛玩される蝶々。 そして苛められるちょうちょ。 囚われたものは捕らえた者のなすがまま。それは自然界だろうが人間界だろうが、一寸も変わりやしない。 「つかまえた。」 そして、籠の蝶々はキスされた。 橙色に染まった列車の中。誰も見ていない列車の中。 籠の蝶は束縛されることの愛しさを覚えた。 ―目的地まで、あと僅かの列車の中。 (束縛という紐で繋がれていたいの) ============================== ベタな展開。 ずるいからこそ、エドなのです。 ていうかヒロインちゃんが変態くさい・・・orz エドにはかなわないよ、っていう意味で捉えて下さい☆ 待 (20090817) |